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実践UXデザイン

2018年7月26日に,近代科学社から,『実践UXデザイン -現場感覚を磨く知識と知恵-』という本を出版した.

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今まで,HCDやUXデザインに関しては,理論や概念や手法などを解説する,いわゆるメソッド系図書がほとんどであった.一方,HCDやUXデザインを実践する現場においては,メソッドを選択・適用して諸問題に適宜対応するための知識や知恵など,いわゆる”実践のためのノウハウ”が必要不可欠である.これは,HCD-Net(NPO法人 人間中心設計推進機構)のサロンやセミナーでも,事例報告に関するものは参加者が多いという傾向からも明らかだ.つまり実践現場では,より多くの知識や知恵を得て,それらを参考に自組織にてらした戦術を練る,というようなことが求められている.主要な目次は次の通りである.

第 1 章 UX デザインを実践する
第 2 章 経営との関係に配慮する
第 3 章 関連部門・分野との関係を重視する
第 4 章 最新技術をひも解く
第 5 章 クリエイティブ脳を使う
第 6 章 未来志向の UX デザインを考える
第 7 章 社会現象,社会行動に敏感になる
第 8 章 優れた UX のデザイナーを目指す

小生は長い間メーカーに勤務し,幸い多種多様なプロジェクトにかかわるチャンスがあったので,その経験を基に,UXデザインに関するノウハウを本書にまとめた.対象読者は,企業においてHCDやUXデザインへ従事する実践者(デザイナー・プランナー・エンジニア・マーケッター),および実践予備軍としてのHCD/UXデザイン系学生などである.

なお書評は,山梨大学の郷先生よりいただいた.実践経験に基づくノウハウなので”学校では学べない”というのは,その通りであろう.多くの方に一読願えれば幸いである.

ページ数:200頁
判型:A5 変型
定価:本体 2,500 円+税
ISBN:978-4-7649-0569-6(amazonページ出版ドットコム紀伊国屋書店

 

コンピタンスの棚卸し

自分の専門性は2, 3年毎にアップデートした方がいい。それと共にやるべき大事な事が三つある。
一つは、専門的な悩みを相談できる信頼できる知人を、年齢を超えて最低10人位は確保すること。二つ目は、専門性が属するコミュニティを成熟させ、発展させる活動にかかわること。三つ目は、仕事以外に頭をリフレッシュできる利害関係の無い人(家族や友人)との交流を欠かさないことである。この三つが欠けていては、いくら専門力を磨いても自分をスケールアップ、スケールアウトさせることはできず、不本意な限界を招くであろう。

ちなみに専門力のアップデートとは、①自分の専門的なコンピタンスや知識を棚卸して、②その時代に求められる内容を確認し、③不足している内容を補うことである。
このアップデートのための三つを行うにも、先の活動を行うことが重要となる。専門的な悩みを相談できる知人を持つことと、専門性が属するコミュニティを成熟させることは、相乗的である。知人と連携してコミュニティー活動を推進できるし、またコミュニティー活動の中で信頼できる知人とも出会える。
仕事のリフレッシュについては、健康も考え、自分に合った方法で身体を動かすのが良いと思う。それを家族や、仕事以外の気のおけない友人とできれば最高だろう。

アップデートを行う際は、HCD-Netのコンピタンスリストを活用するのが良いと思う。このリストのどこが埋められるか、埋められないかを判断していけばいい。専門家認証を受ける受けないは別として、こういう客観的な資料をツールとして活用して欲しい。(了)

コンテクストを読む ーCultural Probe

先日、オランダから来ているデザイナーと話す機会があったので、オランダのUX事情を聞いてみた。

彼女はデルフト大学の出身である。同大は地元企業のPHILIPS社やOCE社との産学プロジェクトも盛んに行っており、卒業生の多くが両企業に入社している。彼女も地元企業の一つにデザイナーとして入社し、現在はUXを担当している。彼女が話してくれたUXデザインの様々な方法論の内、Cultural Probeに熱心に取り組んでいる点に好感が持てた。Cultural Probeはエンドユーザーのコンテクストを知る方法なのだが、巧みにシステム化されており、ユーザーも楽しんで回答できる。

Photo Daily法やPhoto Essay法、シール、簡単なコラージュ、地図、ポストカードなどを組み合わせてキット化するのだが、このキットの中身が実に楽しい。
数年前に産業デザイン振興会でもワークショップがあった。Cultural ProbeはContext Mapping(Gaver、 Dunne and Pacenti)を進化させた手法で、GaverらはCultural Commentatorsというアプローチの一環としてCultural Probeについて述べている。

ユーザーがセルフフォトを撮り、図解やイラストなどを描き、それらがコンテクスト定義の一部を成すことから、Co-Design(Sanders 他)に属するものと位置づけられる。Co-Designには、1960年代にスカンジナビア諸国で発祥したParticipatory Design(Ehn & Kyng、かのPARCでもSuchmanもやっていた)、ユーザーを開発現場に招き入れるEmpathic Design(Crossley)、ユーザーにデザイン決定権を委ねるUser Designなど様々なものがあるCultural Probeはその中で、キットを通じてユーザーと交流するCo-Designである。

キットを送付して2週間位で回収し分析する。分析の過程でポストインタビューやミニワークショップを実施する。

さて、インサイトの引き出しには手法では解決できない難しさがある。参与観察。俗にいうエスノグラフィー調査であるが、観察といっても傍観者ではいけないし、あまり介入し過ぎてもいけない。調査方法よりも調査者の人柄で成果が左右されることもある。訪問先とのラポールをいかに早く形成できるかがカギである。

また、現場に滞在すること自体が難しいこともある。ビジネスシステムでは機密も多く、そもそもユーザーの現場に入ること自体が難しい。そこでCultural Probeのような『ユーザーが実施していて楽しい』という要素が重要である。

Cultural Probeにはマニュアルやインストラクションなどはほとんど無い。ワードレスとは言わないがレスワードであり、図や写真で回答するものが多く、プレゼントを開けるようなワクワク感もある。興味をかきたて,モチベーションをアップする。回収率にも寄与する。キットのやり取りなので接触も少なくて済む。キットを作るのは少し手間がかかるが、素材はテンプレート化すれば使い回せる。何よりもユーザーが楽しいことが大事であり、調査を超えた良い関係づくりにもつながる。

Cultural Probeの具体的な内容については、近いうちにHCD-Netサロン等で事例報告するつもりなので、ご期待されたし。なお、参考となるウェブサイトを2つご紹介する。
・HCIの論文:http://www.hcibook.com/e3/casestudy/cultural-probes/
・Youtube:http://www.youtube.com/watch?v=EJqpUG4pJIE

アドバンスデザインとHCD

2010年度の第1回Hcd-Netサロンは、「アドバンスデザインとHCD」というテーマで、2010年4月23日(金)18:30から21:30にかけて、ネイバージャパン社のカフェをお借りして開催した。

セカンドファクトリーの井原氏と有馬氏、石黒猛事務所の石黒氏、およびtakram design engineeringの畑中氏のレクチャラー4名が3つの事例を紹介し、活発な討議を行った。

井原氏と有馬氏はセカンドファクトリーで主に依頼案件のPM(注;Project Management)をご担当されている。両氏は、アドバンスデザインが「将来的な価値の立証」だとして、未来のUXをシナリオ化するなかで、そのシナリオに基づくプロトタイプを作成し、適切な提案を心がけているとのことだった。

体験可能でリアルなプロトタイプにより、先行提案がクライアントに確証を与えるものとなる。但し、目的や用途をよく考えずに製作したプロトタイプが意図に反して製品のα版となってしまったり、目的に適った検証ができないなど、やはり製作する上でのTPOが大事であるとし、「プロトタイプのTPO」という課題を提示した。また「人の気配」がする演出やテイストを大事にしているとのことであった。

石黒氏は、IDEO社に7年半在籍し、その後独立。現在は石黒猛事務所を主宰している。〔時代を超えて新しい経験を提供する〕ことを大事にされており、ここに「新しい体験」というアドバンスデザインの本質が垣間見えた。この「新しさ」を得るためには本質を捉えれば良いとし、〔本質を共有する〕ことを目指しておられるとのことである。ここに「受け手の共感」が導きだされるカギがあると感じた。また氏は、アドバンスデザインを、「デザイン」と「芸術」と「舞台」の3つの輪の重なりで示していた。

デザインは社会性であり、芸術は純粋美を、また舞台は人の生き様や生そのものが凝縮されたものであると理解できる。デザインは常に社会性を内包しながらも、同時に〔美の追求〕ということもまた無くてはならないものである。舞台はいわば、その縮図でありデザインをシミュレーションする「場」の様にも思える。大変興味深い視点である。

畑中氏はtakram design engineeringの創立者であり、アドバンスデザインの作品として、多くの製品提案やインスタレーションをディレクションしている。日頃の活動の中で、やはりデザインとエンジニアリングの連携や協働が非常に大事であるとしている。これはISO13407(現在ではISO9241-210)でいうInterdisciplinaryであり、日常のタスクの中でUCDチーム活動を行うことを意味する。

氏は、アドバンスデザインで心がけるべきことは〔提案の本質を的確に表現していながら自由な解釈の余地も兼ね備えていることである〕と述べられており、やはり「本質」という言葉を用いていた。本質を突かなければ、関係者をその気にさせ動機付けることはできない。そのためには〔そぎ落としていく/刺激を与えるが刺激しすぎない〕ことが重要である、と述べている。

そぎ落とすとは、例えば五感であればその全てを考えモダリティを増やしていくのではなく、聴覚だけとか視覚の中の動きのみに着目するなど、ミニマルなアプローチを模索する、と解釈できる。またこれらのビジョンを、アートインスタレーションという形で多数発表してきており、やはり「芸術性」というキーワードが背景にあることが確認できた。

今回のサロンで、アドバンスデザインにとって重要な視点の幾つかが提示された。それは・・・

  • 将来的な価値
  • リアリティ
  • 新しい体験
  • 時代を超えて新しい経験を提供する
  • 人の気配
  • 本質を共有
  • 本質を突く
  • 受け手の共感
  • 芸術性
  • 美の追求
  • プロセスとして重要なものはプロトタイピング
  • プロトタイプのTPO
  • そぎ落としていく
  • 刺激を与えるが刺激しすぎない
  • ミニマルなアプローチ
  • 確認し再現する場である「舞台」の存在

僕も仕事でアドバンスデザインを行っていて、うなずけることが多かった。僕も、単に新しいとか、単に未来的な感じを出すということではなく、 いかに新しい顧客価値を提示し共感を得られるかを日々考えている。日本ではまだアドバンスデザインは根付いているとは言いがたく、これからも研鑽を積まなければならないが、アドバンスデザインは今後も更に重要な活動にまると思う。

サステイナブルな社会を実現するのは、エコでもなく、美の追求という矮小化されたものでもなく、革新を伴う先行的な活動を絶え間なく行っていることであると信じている。そのフレームの中で仕事をして行こうと思う。

※注意: カタカナ表記は、<Advanced Design>の発音を基にすると<アドバンストデザイン>となるが、ここでは日本語としての<アドバンスデザイン>を使用した。

第1回 HCD-Netサロン「アドバンスデザインとHCD」

今回のサロンはHCDと先行デザインとの関係を考える場です.

まったく新しい機能や価値をもった商品やサービス,場や情報共有のしかたなどの可視化を行うアドバンスデザインは,ニーズドリブンなアプローチが採 用できないデザイン分野であるといえます.このニーズの無い状況の中でいかに受け手の共感を得るか.ニーズに代わるドライブ要素は何なのか.あるいはアド バンスデザインにおいて受け手である人間はどう捉えられ位置付けられているか.さらに踏み込んで言えば,人間中心設計という考え方は成り立つのか,等々に ついて,3つの事例を通じてざっくばらんな議論をしたいと思います.

日時;
2010年4月23日(金) 18:30〜21:00(予定)

※18:00頃から,ThinkParkタワーの2階ロビーでカードをお渡しします.受付は23階にて,18:15から.

会場;
ネイバージャパン株式会社内カフェ.
JR大崎駅 南改札口、新西口より専用ベデストリアンデッキで徒歩2分.ThinkParkタワー23階.

※参加費は事前振り込みをお願いします.(お申込みいただいた方にご案内)

定員; 40名

構成;
18:30-18:35 幹事挨拶(松原幸行、キヤノン)
18:35-19:10 有馬 正人氏,井原 亮二氏(セカンド ファクトリー)
19:10-19:45 石黒 猛氏(デザイナー) 19:50-20:25 畑中 元秀氏(タクラム デザイン エンジニアリング)
20:25-21:00 全体ディスカッション

参加申込;
メールタイトルを「第1回HCD-Netサロン参加申込み」として
①氏名,②所属,③メールアドレス,④会員区分(一般,一般学生,正会員,賛助会員,学生会員)を本文に記入し,
hcdnet_registration@hcdnet.orgまでメールでお申込みください.

レクチャー
有馬 正人;
大学在学中に南アジア諸国でのNGO活動を経験し,自らのコアとなるスキルを身につける必要性を痛感する.卒業後,Web業界でのものづくりスキル を身につけることを目指し,セカンドファクトリーに参加する.現在はエクスペリエンスデザイナーとして活動中.現在はエクスペリエンスデザイナーとして活 動中.

井原 亮二 ;
セカンドファクトリー所属.エクスペリエンスデザイナーとして要求分析や情報設計を行う傍らで,案件をまとめるPLや社員教育など主な案件として, 次世代デジタルデバイスで重要な役を担うユーザーインターフェイスをデザインしている.

石黒 猛;
1969,山梨県生まれ.育英工業高等専門学校卒業後,1995年にロンドン,ロイヤル・カレッジ・オブ・アート,工業デザイン科修了.1996年 に米IDEO社入社.サンフランシスコ事務所に勤務し,広くプロダクトデザイン,戦略にたずさわる.1999年,同社東京に転勤し,2001年退 社.2001年から個人で活動を開始.1998年にRice Salt&Pepper,また2007年に加湿器Chimneyが,ニューヨーク近代美術館永久保存に選定される.プロダクト,アート,舞台演出 など多岐に活動中.2009年,国際宇宙ステーションで使用される機材を設計,デザインし,現在宇宙ステーションにて運用中.

畑中元秀 ;
takram design engineering共同創業者,取締役,デザインエンジニア.Ph.D..デザインとエンジニアリングの相乗効果を活かした製品開発を,各種電子機器 やロボット,医療機器,スポーツ機器,楽器などの分野で実施している.1999年東京大学工学部産業機械工学科卒業.米国スタンフォード大学大学院で,ロ ボット開発および設計理論の研究に従事しつつ,デザインや開発の手法を学び,2005年に博士号取得.2006年田川欣哉と共にtakramを設立.ほか に実際の設計研究会会員,危険学プロジェクト研究協力員,日本機械学会メカライフ編修委員を務める.http://www.takram.com/

エスノグラフィー調査

またエスノグラフィー調査を始めた.

今回のエスノグラフィー調査は利用状況を知ることが目的ではないし,ちょっと事情がありとても短期間で行わなければならず,その意味では「簡易エスノグラフィー調査」と言った方がいいかもしれない.しかし調査手法は伝統的なエスノグラフィー調査の方法を適用している.

ところで,最近日本にもエスノグラファーが増えて来た.
それだけ仕事のニーズがあるということか.まだ学校での専門教育は無いはずだから,実地的に学んでいるのだろう.最近の傾向を見ていると,訪問インタビューに毛の生えた程度の簡易的なものが多い(これも簡易エスノグラフィーである).

エスノグラフィー調査を本格的にやろうとすると期間が長くなりコストもかさむ.メーカーは外部に依頼しにくいのだ.どうしても簡易的にならざるを得ない.

一方いわゆる一般のオフィスは,機密保持の関係で外部の侵入を拒むので,一定期間滞在するエスノグラフィー調査は実施しにくい.実施できるのはせいぜいオーナーと交渉しやすいSOHO型オフィスなど,小規模な事業所に限定されるであろう.規模も簡易的にならざれを得ない.

このような制約の中でオフィスでのエスノグラフィーをやるには,やはりメーカー内部のUX部門などが中心に活動するのがいいだろう.僕の経験でも,UX部門が直接営業部門にコンタクトし,ロイヤルカスタマーなどを探すのがもっとも近道だ.僕の場合はこのやり方で2週間の滞在型調査を行ったが,手間隙は尋常ではなかった.

今月,再びエスノグラフィーのプロジェクトを立ち上げるので,その様子などもここに書きたいと思う.

質的研究方法ゼミナール―グラウンデッドセオリーアプローチを学ぶ

戈木クレイグヒル滋子氏の著になる書。医学書院出版。

グラウンデッドセオリーアプローチは、インタビューや医療の問診などの発話記録を基に概念構築を行ない理論を得る方法として、介看護の場などで取り入れられている質的研究方法である。
臨床で使われる方法であるから、人工物の利用状況を調査する方法にも応用できると思う。応用というよりむしろ、エスノグラフィー視点のユーザビリティ調査技術を強化するために役立つと考えられる。大まかには、まず観察およびインタビューから得た情報をテキスト化し一文毎に切片化する。これに対して本書で解説されているようなラベル付与やカテゴリー化を行いつつ、プロパティやディメンションを発見するという手順をとる。プロパティは概念の枠組みを決める一つの杭のようなものであり、プロパティやディメンションの集まりで概念を考察する。その概念は調査対象の理論的解釈を可能にするとともに、観察事実と合わせれば対象の理解を深めることに役立つ。
こう言うと非常に便利で都合の良い手法のように聞こえるが、ラベル付与やカテゴリー化、プロパティやディメンションの発見などには経験が必要だし、そもそも質的研究ということで統計処理のように誰がやっても同じ結果が得られるものではない。しかし介看護の現場で使われるように、対象を正しく理解するためには、良い方法だと思う。
戈木氏の、グラウンデッドセオリーアプローチに関するもう一冊の解説書「グラウンデッド・セオリー・アプローチ-理論を生みだすまで」には、切片化やラベル付与、プロパティやディメンションについて更に詳しく書かれている。本手法に興味のある方は、是非読んで見るといい。僕は本書の方を先に読むことをお勧めするが。

さて、グラウンデッドセオリーアプローチは概念を考察し理論的な枠組みを見つける手法なので、僕もこれを使ってFutuer Centered Designとその役割や意義を再確認してみようと思う。

Futuer Centered Designが問いかけるもの

Futuer Centered Design(未来中心設計)とは単に未来を描くということではなく、将来の社会的な要請や存在価値などを考えながら今までに無い新しい人工物を産み出して行くデザイン活動です。いわゆる先行提案とか先行開発と言われるもの。未来デザインというとSFを思い浮かべるが、未来を科学的に予測し実現可能なものとして提示するという意味ではSFとはまったく違う。違うが、未来を予測するという意味でなら似ているかもしれない。いずれにしろ、現在のニーズをそのまま手がかりにはできない。

現在のニーズからそのまま未来を見通すと色々と不都合が生じてくる。利用品質の意味は社会や自然など環境の変化に呼応するので、明日のものと未来のものでは予測の観点や尺度が変わって当然という状況になる。明日いいものが未来もいいとは限らない。変化が激しい昨今では更に危うい解が産み出されかねない。さらに財のライフサイクルがどんどん短くなっているから、よほど注意しないといけない。そのような中で新しい価値を創出するためにはどうしたら良いのか。

僕は、そのような文脈の中で、アドバンストデザイン(先行提案)に取り組んでいます。

Futuer Centered Designの骨子の一つは、勿論人間中心設計だが、これに加えてエコロジーデザイン、つまり環境中心の考え方と、セイフティーネットの考慮が必要である。環境中心ないし環境主義のあり方としては、自然環境に加えて社会環境やサービス利用の環境の変化(ネットワークやクラウドなど)への対応を考慮する必要がある。セイフティーネットのあり方としては、社会的弱者や増加する高齢者への対応が重要となる。また予期せぬ事態にも柔軟に対処でき、学習し成長するシステム(Pliant System)を志向することが求められる。

セイフティーネットに注力した開発志向がユニバーサルデザインであると言う事もできる。但しセイフティーネットと個々の障害への対応はアプローチが異なるし同じ次元では考えるのは危険である。セイフティーネットは、補完的な代替手段を提供することなども考えられるが、障害への対応は本来個々の障害に合わせてカスタマイズすべきものである。そこには「代替」などというものはない。

Futuer Centered DesignのプロセスをISO13407になぞらえると、以下のようになる。

①未来の利用状況予測:
社会動向の変化や5~10年先の技術シナリオを描くこと、またユーザー嗜好や価値観の変化を予測し、ユーザーニーズの拡張・進化を定義することなどが含まれる。

②未来ユースの要求定義:
新しいサービスを定義し、未来の利用シーンとユースケースをまとめ、これらを基に、プロトタイプの外部仕様をまとめることがゴールとなる。

③設計デザイン解の製作:
新しい使用体験の可視化を目的としたプロトタイピングを行う。可能であればホットモックアップ(可動試作)が望ましい。

④充足度の評価:
仕様書やプロトタイプに対して認知的ウォークスルー法による評価を行うことが有効である。

未来志向のデザイン活動は、なかなかあるべき論では成立しないもので、組織として行う場合は、組織の目標に枠組みを与えられたり、コアコンピタンスを生かすことが重要となる。その意味では、先行的であればあるほど、ブランドエクイティ(ブランド価値)の影響を強く受けるものであると言える。僕自身、最近特に強く感じることである。