2010年度の第1回Hcd-Netサロンは、「アドバンスデザインとHCD」というテーマで、2010年4月23日(金)18:30から21:30にかけて、ネイバージャパン社のカフェをお借りして開催した。
セカンドファクトリーの井原氏と有馬氏、石黒猛事務所の石黒氏、およびtakram design engineeringの畑中氏のレクチャラー4名が3つの事例を紹介し、活発な討議を行った。
井原氏と有馬氏はセカンドファクトリーで主に依頼案件のPM(注;Project Management)をご担当されている。両氏は、アドバンスデザインが「将来的な価値の立証」だとして、未来のUXをシナリオ化するなかで、そのシナリオに基づくプロトタイプを作成し、適切な提案を心がけているとのことだった。
体験可能でリアルなプロトタイプにより、先行提案がクライアントに確証を与えるものとなる。但し、目的や用途をよく考えずに製作したプロトタイプが意図に反して製品のα版となってしまったり、目的に適った検証ができないなど、やはり製作する上でのTPOが大事であるとし、「プロトタイプのTPO」という課題を提示した。また「人の気配」がする演出やテイストを大事にしているとのことであった。
石黒氏は、IDEO社に7年半在籍し、その後独立。現在は石黒猛事務所を主宰している。〔時代を超えて新しい経験を提供する〕ことを大事にされており、ここに「新しい体験」というアドバンスデザインの本質が垣間見えた。この「新しさ」を得るためには本質を捉えれば良いとし、〔本質を共有する〕ことを目指しておられるとのことである。ここに「受け手の共感」が導きだされるカギがあると感じた。また氏は、アドバンスデザインを、「デザイン」と「芸術」と「舞台」の3つの輪の重なりで示していた。
デザインは社会性であり、芸術は純粋美を、また舞台は人の生き様や生そのものが凝縮されたものであると理解できる。デザインは常に社会性を内包しながらも、同時に〔美の追求〕ということもまた無くてはならないものである。舞台はいわば、その縮図でありデザインをシミュレーションする「場」の様にも思える。大変興味深い視点である。
畑中氏はtakram design engineeringの創立者であり、アドバンスデザインの作品として、多くの製品提案やインスタレーションをディレクションしている。日頃の活動の中で、やはりデザインとエンジニアリングの連携や協働が非常に大事であるとしている。これはISO13407(現在ではISO9241-210)でいうInterdisciplinaryであり、日常のタスクの中でUCDチーム活動を行うことを意味する。
氏は、アドバンスデザインで心がけるべきことは〔提案の本質を的確に表現していながら自由な解釈の余地も兼ね備えていることである〕と述べられており、やはり「本質」という言葉を用いていた。本質を突かなければ、関係者をその気にさせ動機付けることはできない。そのためには〔そぎ落としていく/刺激を与えるが刺激しすぎない〕ことが重要である、と述べている。
そぎ落とすとは、例えば五感であればその全てを考えモダリティを増やしていくのではなく、聴覚だけとか視覚の中の動きのみに着目するなど、ミニマルなアプローチを模索する、と解釈できる。またこれらのビジョンを、アートインスタレーションという形で多数発表してきており、やはり「芸術性」というキーワードが背景にあることが確認できた。
今回のサロンで、アドバンスデザインにとって重要な視点の幾つかが提示された。それは・・・
- 将来的な価値
- リアリティ
- 新しい体験
- 時代を超えて新しい経験を提供する
- 人の気配
- 本質を共有
- 本質を突く
- 受け手の共感
- 芸術性
- 美の追求
- プロセスとして重要なものはプロトタイピング
- プロトタイプのTPO
- そぎ落としていく
- 刺激を与えるが刺激しすぎない
- ミニマルなアプローチ
- 確認し再現する場である「舞台」の存在
僕も仕事でアドバンスデザインを行っていて、うなずけることが多かった。僕も、単に新しいとか、単に未来的な感じを出すということではなく、 いかに新しい顧客価値を提示し共感を得られるかを日々考えている。日本ではまだアドバンスデザインは根付いているとは言いがたく、これからも研鑽を積まなければならないが、アドバンスデザインは今後も更に重要な活動にまると思う。
サステイナブルな社会を実現するのは、エコでもなく、美の追求という矮小化されたものでもなく、革新を伴う先行的な活動を絶え間なく行っていることであると信じている。そのフレームの中で仕事をして行こうと思う。
※注意: カタカナ表記は、<Advanced Design>の発音を基にすると<アドバンストデザイン>となるが、ここでは日本語としての<アドバンスデザイン>を使用した。