コンテクストを読む ーCultural Probe

先日、オランダから来ているデザイナーと話す機会があったので、オランダのUX事情を聞いてみた。

彼女はデルフト大学の出身である。同大は地元企業のPHILIPS社やOCE社との産学プロジェクトも盛んに行っており、卒業生の多くが両企業に入社している。彼女も地元企業の一つにデザイナーとして入社し、現在はUXを担当している。彼女が話してくれたUXデザインの様々な方法論の内、Cultural Probeに熱心に取り組んでいる点に好感が持てた。Cultural Probeはエンドユーザーのコンテクストを知る方法なのだが、巧みにシステム化されており、ユーザーも楽しんで回答できる。

Photo Daily法やPhoto Essay法、シール、簡単なコラージュ、地図、ポストカードなどを組み合わせてキット化するのだが、このキットの中身が実に楽しい。
数年前に産業デザイン振興会でもワークショップがあった。Cultural ProbeはContext Mapping(Gaver、 Dunne and Pacenti)を進化させた手法で、GaverらはCultural Commentatorsというアプローチの一環としてCultural Probeについて述べている。

ユーザーがセルフフォトを撮り、図解やイラストなどを描き、それらがコンテクスト定義の一部を成すことから、Co-Design(Sanders 他)に属するものと位置づけられる。Co-Designには、1960年代にスカンジナビア諸国で発祥したParticipatory Design(Ehn & Kyng、かのPARCでもSuchmanもやっていた)、ユーザーを開発現場に招き入れるEmpathic Design(Crossley)、ユーザーにデザイン決定権を委ねるUser Designなど様々なものがあるCultural Probeはその中で、キットを通じてユーザーと交流するCo-Designである。

キットを送付して2週間位で回収し分析する。分析の過程でポストインタビューやミニワークショップを実施する。

さて、インサイトの引き出しには手法では解決できない難しさがある。参与観察。俗にいうエスノグラフィー調査であるが、観察といっても傍観者ではいけないし、あまり介入し過ぎてもいけない。調査方法よりも調査者の人柄で成果が左右されることもある。訪問先とのラポールをいかに早く形成できるかがカギである。

また、現場に滞在すること自体が難しいこともある。ビジネスシステムでは機密も多く、そもそもユーザーの現場に入ること自体が難しい。そこでCultural Probeのような『ユーザーが実施していて楽しい』という要素が重要である。

Cultural Probeにはマニュアルやインストラクションなどはほとんど無い。ワードレスとは言わないがレスワードであり、図や写真で回答するものが多く、プレゼントを開けるようなワクワク感もある。興味をかきたて,モチベーションをアップする。回収率にも寄与する。キットのやり取りなので接触も少なくて済む。キットを作るのは少し手間がかかるが、素材はテンプレート化すれば使い回せる。何よりもユーザーが楽しいことが大事であり、調査を超えた良い関係づくりにもつながる。

Cultural Probeの具体的な内容については、近いうちにHCD-Netサロン等で事例報告するつもりなので、ご期待されたし。なお、参考となるウェブサイトを2つご紹介する。
・HCIの論文:http://www.hcibook.com/e3/casestudy/cultural-probes/
・Youtube:http://www.youtube.com/watch?v=EJqpUG4pJIE

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